【現役ゼネコン設計者が教える】鉄骨部材の許容応力度

tetu 構造設計

今回は鉄骨部材の許容応力度について書きたいと思います。

日本の設計では(外力によって生じる応力度)<(許容応力度)を確認する許容応力度設計を行います。

詳しくは以前記事に書いているので合わせてお読みください!

このうち外力によって生じる応力度は構造解析で計算しますが、今回のテーマである許容応力度は材料によって決まっています。

作用する応力や拘束条件によって値が変わったり低減させたりしますので、少し複雑になっています。

許容応力度を出すときのポイントを書いていきたいと思います!

許容応力度って何ですか?という方や何となくは分かっているのだけれど、詳しいところまでは自信がないという方も今回の記事を読んでいただければばっちり理解できると思います!

主な材料と応力の種類

鉄骨でよく使われている材料はH鋼であればSS400,SM490,SN490あたりで、角形鋼管であればSTKR400,BCR295,BCP325あたりで胴縁の軽量型鋼SSC400あたりだと思います。

JIS規格品だとか大臣認定品だとかA材、B材、C材とかTMCP鋼等細かく説明するときりがないので今回は400材のH型鋼を中心に説明していきたいと思います。

許容応力度の種類は「引張」、「圧縮」、「曲げ」、「せん断」の4種類です。

本質的には応力には引張と圧縮しかありません。

曲げやせん断は同じ断面の中に引っ張り力が作用するところと圧縮力が作用するところが混在します。

また許容応力度には2種類あって、「長期許容応力度」と「短期許容応力度」です。

この二つの関係は「短期許容応力度」が断面の中で一番厳しい条件の箇所が降伏する時の応力度で「長期許容応力度」は短期許容応力度から安全率を1.5とったものになります。

降伏という現象は材料が完全に元通りになる「弾性」という状態から外れることを言います。

一度降伏すれば完全に戻らず、ダメージが残る状態と理解していただければ良いと思います。

また、長期と短期の使い分けは外力の種類にあります。

長期応力は自分の重さ、つまり自重に対する応力で部材に常に作用する応力を言います。

短期応力は風や雪、地震などに対する応力で一時的に作用する応力を言います。

基本的には短期許容応力度は長期許容応力度の2倍なのでこの記事では長期許容応力度について書いていきます!

引張許容応力度

hasi

これは一番簡単です。

低減もなく一定値です。

SS400などの400材であれば長期許容応力度は156N/mm2、SM490などの490材であれば長期許容応力度は216N/mm2です。

この数字は建築基準法で決められている値なので覚えてしまいましょう!

これだけでは味気ないので応力度と材料の状態について少し書きたいと思います。

材料は作用する力がどんどん大きくなっていくと「弾性」→「降伏」→「破壊」という段階を経て壊れます。

許容応力度以下ということは「弾性」領域にとどまっており、力を解除すれば元通りに戻る状態です。

長期許容応力度を超えても短期許容応力度を超えなければ材料の状態としては同じです。

単純に安全率を見ているだけなので。

長期許容応力度がなぜ必要なのか疑問に思う方もいらっしゃると思いますが、構造設計は工学的に判断しているため、構造解析の結果が実際の状態を100%表現できているわけではありません。

厳密に言うと荷重の状態は異なりますし、実際には材料にも製作上のばらつきがあります。

過去の膨大な経験からこれなら安全であろうという安全率を設定して長期許容応力度を設定しているのです。

圧縮許容応力度

hashira

圧縮力に対しては座屈現象を考慮しなくてはいけません。

圧縮許容応力度自体は断面積で決まります。

そこから座屈しやすさで低減をかけていき求められます。

断面の形状と材料の長さ及び端部の拘束条件で決まります。

断面形状はH形鋼は比較的座屈しやすいです。

一方で角形鋼管は座屈しにくいです。

四角のように断面が閉じている(閉断面(へいだんめん)と言います)方が座屈に強く、Hのように断面が閉じていない(開断面(かいだんめん)と言います)ものは座屈に弱いです。

材料の長さは長ければ長いほど座屈しやすくなります。

拘束条件は当然拘束力が強いほど座屈しにくくなります。

感覚的にも理解できると思いますが、例えば直径1㎝の円形状の棒があるとします。

この棒の長さが5㎝の物と100㎝の物だと棒を押しつぶそうとしたときにどちらが先に壊れるか何となく想像できますよね?

更に、恐らく100㎝の棒は押しつぶされるというよりはべこっと曲がって壊れてしまう姿を想像すると思います。

それが座屈です。

圧縮力を考えるときは座屈とは切っても切れない関係があるのです。

曲げ許容応力度

hari

曲げという力は引張や圧縮と少し違います。

引張や圧縮は断面全体に引張や圧縮が作用しています。

曲げはというと断面に引張りと圧縮が混在することになります。

難しく言うと引張や圧縮は軸方向に引張ったり押したりしているのですが、曲げは軸と直行方向に引張ったり押したりしたときに生じる応力です。

曲げ応力に対して降伏するということは材料の端部が降伏する状態になります。

一方で引張や圧縮は断面全体が同じ状態なので全断面が同時に降伏する状態になります。

先ほどの話ともつながるのですが、曲げが作用すると圧縮力が生じるので座屈を考える必要があります。

曲げも断面形状と応力状態、材料の長さで許容応力度を低減させます。

角形鋼管等の閉断面は低減させる必要ありません。

これは座屈の心配がないからです。

またH型鋼などの断面は原点対称な図形ではないので曲げがかかる方向で強い方向(強軸)、弱い方向(弱軸)があります。

弱軸方向の曲げも低減させる必要がありません。

これは座屈が生じる前に許容応力度に達してしまうからです。

曲げので考えないといけない座屈は横座屈と局部座屈です。

H型鋼を想定して話しますが、フランジ部分に圧縮力が作用するのでウェブの拘束力が弱ければフランジが座屈してしまいます。

これが横座屈です。

一方局部座屈はウェブが薄すぎたときにウェブが部分的に座屈してしまう現象です。

こういった座屈条件を考慮して許容応力度を低減させていきます。

せん断許容応力度

せん断応力は曲げが生じる時と同じで軸方向に直行に力を加えたときに生じます。

せん断力はH型鋼の場合はウェブで負担して、角形鋼管では力が作用する2枚の板で負担しています。

許容応力度の低減はありませんが、√3で割った値がせん断許容応力度になります。

まとめ

今回は許容応力度設計における許容応力度の特徴を書いていきました。

もっと複雑なケースはもっとも難しくなりますが、今回はよくある状況をピックアップして説明しました。

具体的な式は出しませんでしたがどういった理由で低減が入って、どういった状況の時に低減の値が大きくなるのかを説明しました。

最初は理解が難しいかと思いますが、何度も計算をしているとだんだん理解できてくるはずです。

手を動かして理解を深めていきましょう!

コメント

タイトルとURLをコピーしました